私が今まで54か国に訪問したなかで、何度かやっかいなトラブルに遭った事があります。
しかし過去に詐欺で引っかけられそうになった事はあるものの、完全に騙されたのは人生で1度だけです。
それが本記事で書いているインドのデリーで体験した巧妙過ぎる『祭り詐欺』です。
浮かれた気分でインドに入国
私がインドを訪れたのは、世界一周をしていた2014年のこと。
インドを訪れる前は、リゾートとして有名なモルディブに滞在していました。
モルディブを満喫し、浮かれた気分で飛行機に乗って、インドの首都デリーへと向かいました。
日本より綺麗な空港
インドの玄関口でもあるデリーのインディラ・ガンディー国際空港は、日本の空港以上に綺麗な空港でした。
噂に聞いていた「汚いインド」のイメージとはかけ離れていました。
空港からは、メトロを利用してデリーの中心街、ニューデリー駅へ向かいました。
メトロも空港と同じく、日本並みかそれ以上に綺麗な車両です。
「もしかしてインドって噂ほど汚くないかも。なんだかこの国も好きになれそう。」と、この時は思ってました。
しかし、そこからが地獄の始まりでした。
悪名高いニューデリー駅
ニューデリー駅周辺はインドの中でも特に詐欺や騙し、盗難が多い場所として有名です。
本来ならニューデリー駅から私達が宿泊する予定のホテルまでは徒歩20分で着くはずでした。
それが詐欺師らの巧妙な手によって、6時間もかけて行く羽目になります。
コンフィデンスマンJP級詐欺の始まり
ニューデリー駅に着いたのは午後6時すぎ。
『メトロのニューデリー駅』の西隣にある駅が『国鉄のニューデリー駅』です。
国鉄のニューデリー駅の西側には『メインバザール』という安宿街があります。
私が宿泊する予定だったホテルもこのメインバザールがありました。
メトロのニューデリー駅から外に出る際、駅前に立っていた警備員にメインバザールまでの行き方を聞きました。
警備員「国鉄のニューデリー駅にある歩道橋を渡るとすぐに辿り着く」
と教えてくれたので、その通りに徒歩で国鉄のニューデリーへ向かいます。
初インドで外はもう薄暗かった事もあり、駅前はなんともいえない怪しげな雰囲気を感じました。
便所と汗と生ゴミが混ざった様な臭いが漂い、明らかに怪しい数人がこっちを見て手招きをしています。
噂に聞いていた通りの「ザ・インド」にやってきたのだと実感。
もちろん手招きしていた人は無視して通過し、国鉄のニューデリー駅前に到着しました。
しかし、この駅はインドの首都のなかでも最も大きなメインステーションなので、あまりにも広すぎてメインバザールに繋がっているという歩道橋がどこにあるのかよくわかりませんでした。
重い荷物も持っているし、道を間違えて戻ってくるのも面倒です。
とりあえず近くにいた青シャツの青年に声をかけました。
私「メインバザールに行く歩道橋はどこ?」
青いシャツの青年「メインバザール?普段はそこの歩道橋からいけるけど、今日はイスラムの大きな祭りがあるから通れないよ。でも国鉄の敷地内なら通り抜けできると思う。」
確かに青年が指さした歩道橋には『No Entry』という札がぶら下がっていました。
それなら駅の敷地内を通り抜けようと思い、構内へ。
駅構内の荷物検査ゲートを抜けようとしたとき、白シャツを着た駅員らしき男性に電車チケットの提示を求められました。
通り抜けしてメインバザールに行くだけだという事を伝えると、白シャツの駅員は怪訝そうな表情でこう言いました。
「メインバザール?今日は祭りだと知ってる?もし行きたいなら入場許可証がいるよ。許可書がないなら、パスポートを持って観光局の関連会社ITDCに行くと簡単に取れるよ。」
「あと、今開催中の祭りは人が多いので危ないから歩いてる時も気をつけた方がいいぞ。」
と、祭りについては私たちが声をかけたさっき道を尋ねた青シャツの青年と同じ事を言っていました。
ちなみにITDCはインド観光局なんちゃらの略称です。
許可証を簡単に無料で取れるそうですし、仕方ないので観光局まで歩いて行こうと思い、その場を離れようとしました。
すると白シャツの駅員がこう言いました。
「歩いたら遠いぞ。オートリキシャ(トゥクトゥクみたいなやつ)で行ったらどうだ?乗り方がわからないなら俺が目の前にあるタクシー乗り場で交渉してやる。」
荷物も重いし、タクシー乗り場もよくわからなかったので白シャツの駅員に案内してもらいました。
タクシー乗り場に着き、駅員が1台のオートリキシャのドライバーに声をかけて交渉を開始。
白シャツの駅員「30ルピー(日本円で約70円)でどうだ?と言ってる。」
相場はわからなかったけど、とりあえず安いのでお願いすることにしました。
オートリキシャーのドライバーは、20代半ばぐらいの陽気な兄ちゃん。
出発してからは「この辺りは引ったくりが多いから荷物は絶対に道路側には待つな」と教えてくれたり、色々な話題を振ってきたり、移動中は終始明るい感じでした。
インド観光局に到着
ニューデリー駅を出発して20分ほどで、許可書が取れるITDC(観光局)に到着しました。
・・・が、見た目は少し旅行会社っぽい。
中へ入り、スタッフに「メインバザールへ行く許可書がほしい。」と伝えたところ、不思議そうにこう言いました。
スタッフ「メインバザールのホテル?今日空いてるのか?祭りの期間中に行くのは難しいと思うぞ。特に今パキスタンとの情勢が不安定でテロの可能性もあり、今回の祭りでは閉めてる宿も多い。一度ホテルに電話してみたらどうだ?」
実は私たちはこの日の宿は予約しておらず、目をつけていたところに飛び込みで宿泊する予定でした。
一応、宿泊予定のホテル名と電話番号を伝えると、スタッフが世間話をしながら電話をかけ、繋がったところで電話機を渡されました。
空き状況を聞くと「今日は祭り中で危険なのでクローズしている(英語)」という。
しかし、メインバザールに日本人宿があった事を思い出し、スタッフに電話をかけてくれないかとお願いしました。
するとインターネットでその日本人宿の電話番号を検索して電話をかけてくれて、繋がったところで電話機を渡されました。
宿のスタッフ「はい、もしもし!(日本語)」
少し訛りがある日本語なので、多分インド人スタッフです。
私「今日、空室はありますか?あったら泊またいです。」
宿のスタッフ「今日は祭りなので、申し訳ございませんが営業しておりません。(日本語)」
私「他に開いてる宿って知らないですかね?」
宿のスタッフ「いやー今回の祭り期間中はテロの危険があるそうなので、おそらくメインバザール周辺の宿はほとんど閉まってると思いますが…メインバザール外のハイクラスホテルなら空いてるかもしれないですね。(日本語)」
まじかい!って感じでしたが、日本人宿のスタッフが日本語で言うのでまじなのでしょう。
ITDCのスタッフに他のホテルを検索してもらったところ、インド中のイスラム教徒がこの祭りのためにデリー周辺に押し寄せているのでホテルは4つ星クラス以上のハイクラスホテルしか空き室がなく、デリーから出る電車ももう空席がないという。
一応、タージマハルがあるアグラ行きの電車に空席があるかどうか、インド国鉄のホームページで調べてもらいましたが、確かに3日先まで全て「FULL(満席)」と表示されます。
これは参った!
とりあえず空いているホテルを探そうかなと思っていると、係員が一つの提案をしてきました。
その案は、うちのツアーでデリーを抜け、遠くの街を周って観光するというもの。
料金を聞くと、一週間のツアーで日本円に換算すると5~6万円でした。
たかっ!
インドの物価からしてその値段はあり得ない。
そもそも観光局の関連会社が営業なんかしてくるのか?と疑問に思ってきました。
なんかここはおかしい。
そう思って、ツアーに参加するか迷ったそぶりを見せながら「外で待ってくれているオートリキシャのドライバーと話したい」と言い、一旦外に出ました。
時計を見るともう9時半。
外は真っ暗でここがどこかもわからない。
とりあえず、一番安全そうな空港に戻ろうと考えました。
そして、待機してもらっていたオートリキシャの兄ちゃんにメトロのニューデリー駅まで戻るように話しました。
しかし、何故かドライバーの兄ちゃんは渋るようになかなか行こうとしない。
とりあえずニューデリー駅に行くことを説得し、一度建物内に戻りました。
旅行会社のスタッフには「また連絡したい」と言い、名前と電話番号を聞き、その場を後にしました。
オートリキシャでニューデリー駅へ向かう途中、ドライバーの兄ちゃんが旅行会社にいくら払ったのか聞いてきました。
「なんか怪しかったから払ってないよ。」と言うと、おもむろに不機嫌になりました。
多分こいつもグルかな、と思いましたがそこはとりあえずスルー。
メトロのニューデリー駅に着く直前、道を歩いていた中年男がいきなりオートリキシャの天井を強く叩いて止めてきました。
そして「どこに行くんだ?!俺がいいホテルに案内してやる!今日はどこのホテルもクローズだ!」と強引に誘ってきます。
こいつが本当にしつこく、最終的にはけんか腰でオートリキシャから降りるように手を掴んでおもいっきり強く引っ張ってくる始末。
だんだん腹が立ってきてしまい、大声で「Who are you?!(お前誰やねん)」というと、何故か向こうまで怒りながら、まさかの「Who are you?!」返しをしてきました。
全く意味が分からん。という呆れた顔をしていると、向こうまで呆れたというような表情をしてました(なんでお前がその顔やねん)。
会話にならないので、ドライバーの兄ちゃんに早く車を出すように言い、その場を離れました。
ドライバーの兄ちゃんに「あいつは誰なんだ?」と聞くと、
「ただのフーリッシュ(いかれた野郎)だ。」と言っていました。
「わかってるんなら停めんなや!」と言いそうでしたが、そこは我慢。
そして、ニューデリー駅に到着しました。
料金の支払いです。
このドライバーの兄ちゃんも結構怪しいけど、もしそうでなかったら申し訳ない。
それに旅行会社前で結構長く待ってもらっていたのは確かです。
そう思い、30ルピー(約70円)という約束でしたが、150ルピー(約350円)渡すことを決め、差し出しました。
すると、突然豹変したように高圧的な態度で「なんだその金は?30ルピーだと?US30ドル(約3600円)と言ったんだ!早く出せ!」と言って、渡した150ルピーを投げ捨てました。
この日の一連のことでかなり苛立っていた私は、この瞬間に頭の線がキレてしまいました。
「このF※※※※※※※」と怒鳴ってしまいました。
これは絶対にやってはいけない駄目なパターンです。
逆上して刺されるかもしれませんし、何が起こるかわかりません。
とても反省しています。
おそらく、そのとき私は鬼の形相をしていたと思います。
最初は強気だった相手もだんだんと口数が少なくなっていき、投げやりのようにこう言いました。
「Ok…200ルピー(340円)でいい…」
約4時間も旅行会社巡りツアーに付き合わされた事や、さっきのフーアーユー野郎の事や暑さも相まって、この言葉に再度怒りが爆発し、また怒鳴り散らしてしまいました。
「おのれ、頭かち割ったろ※※※※!※※※…(関西弁)」
相手は完全に凝固していましたが、今思い返すと本当に未熟でした。
怒鳴り散らしてしまった事を反省しています。
確かにやり口は汚いかもしれませんが、彼も必死だったのだと思います。
この国では生活をするために何とか稼がないといけません。
まさかの展開
その後、地下鉄のニューデリー駅からメトロに乗り、再びニューデリー空港へと向かってました。
メトロの車内では、乗車前に駅のホームで出会った台湾人の青年と他愛もない話しをしていました。
彼はインド旅行を終えて、母国へ帰るために空港へ向かうところでした。
私は何気なく「今日はイスラムの祭りに行きました?」と聞きました。
すると、台湾人の青年がこう言いました。
「え、祭りって何?」
まさかでした。
そう、祭りの話から何かも全てが嘘だったんです。
や、やられた…
どこから騙されてたのかもわからん。
最初に道を尋ねた警備員?
それとも歩道橋で道を尋ねた青シャツの男?
確実なのは白シャツの駅員らしき男やけど、もう訳がわかりませんでした。
デリー空港に逆戻りし、もう1度ニューデリー駅に戻ろうとも考えましたが、その時はすでに夜の11時前。
旅行会社ツアーのおかげで再びニューデリー駅に戻る気力と重い荷物を持ってまた歩く体力が残っていませんでした。
一番安全な方法を考え、日本人宿に電話をかけてピックアップサービスを利用しました。
台湾人の青年は、ピックアップの車が来るまでずっと付き添ってくれました。
それにしても台湾人ってなんでこんなに優しいのかな。
そして、ピックアップに来たタクシー会社のインド人のおっちゃんに「今日、祭りってある?」と聞くと、「ああ、あるある!」と言いました。
え、どっちなん?
かなり危なっかしい運転でしたが、なんとか無事に宿へ到着。
ピックアップ前に電話で宿のスタッフから「チップは不要です。」と言われていましたが、ドライバーにしっかりチップを要求されました。
ちなみに宿に滞在していた日本人客に本当に祭りがあるのか確認すると、全員から「ないですよ!」と言われました。
あのタクシードライバーもなんの嘘やねん!
ちなみにこの祭り詐欺はデリーでよくあるらしく、インド人も騙されるそうです(笑)
いや、笑い事じゃないですけどね。
宿のスタッフの話しでは、騙すのはニューデリー駅周辺で習慣みたいになっており、なんとか旅行会社やホテルに連れて行き、マージンをもらおうとするそうです。
それにしてもインド人詐欺師のあの連携プレーは半端なくやばい。
どんなネットワーク持ってるねん。
ちなみに宿にいた日本人女性は、デリーのとある商店で買い物して、翌日全く違う場所にある店へ行ったときに商店のスタッフから「お前この商店でこんな物を買ってただろ。」と言われたそうです。
どんな情報力?
あの天才的な頭脳を他で使ったらいいのに。
本当に映画「コンフィデンスマンJP ロマンス編」のような体験をしました。
初日からからインド人不信になった私は、1か月半のインド滞在予定を1週間に変更し、陸路で足早にネパールへ移動しました。
インドに来る人は、インドにハマるか大嫌いになるか、どちらか大きく分かれると聞きます。
私は「インドなんか二度とくるか!」と思いました。
でも最近は、南インドに行ってみたいなと思っています(笑)
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